「サービスブランディング」の本質と戦略について深く掘り下げています。単なるロゴやデザインの刷新に留まらず、企業のアイデンティティを顧客体験にどう反映させ、独自の価値を構築すべきかを解説。エグゼクティブプランナー・畑尾一平氏 × クリエーティブディレクター・八木泰介氏のスペシャル対談記事。

畑尾: 八木さん、今日はよろしくお願いします。私はプロモーションの現場を長く歩いてきたんですが、正直に言うと、「ブランディング」と「プロモーション」って、現場では混同されていることが多い。「ブランディングやりたいです」と言いながら、結局やっていることはキャンペーンの企画だったりする。この二つ、八木さんはどう整理していますか?
八木: 鋭い問いですね。僕の整理はシンプルで、「ブランディングは畑を耕すこと、プロモーションは種を蒔くこと」です。耕されていない硬い土に種を蒔いても、根が張らない。でも肥えた畑なら、少ない種でもよく育つ。
畑尾: なるほど。プロモーションは「蒔く」行為であって、土台となる畑がなければ効果が出ない、と。
八木: そうです。逆も然りで、どれだけ良い畑を耕しても、種を蒔かなければ何も実らない。ブランディングだけやってプロモーションをしない会社は、「いい会社なのに誰も知らない」状態になる。両輪なんです。
畑尾: プロモーションの現場にいると、予算と締め切りの圧力で「まず動かす」ことが優先されがちなんですよね。キャンペーン、イベント、SNS施策……。でも、土台としてのブランドが育っていないと、どれだけ打っても効果が続かない、という経験を何度もしてきた。
八木: その感覚、すごく大事だと思います。プロモーションは「加速装置」だから、向かうべき方向——つまりブランドが示すビジョンや世界観——が定まっていないと、速く動けば動くほど迷子になる。
畑尾: 特にサービス業でその問題が顕著だと思っています。製品と違ってサービスは形がないから、プロモーションで「何を見せるか」が難しい。写真も撮りにくい、スペックも書きにくい。プロモーターとして、いつも悩むところです。
八木: サービスのプロモーションが難しいのは、「体験を売っているのに、体験する前に伝えなければならない」というジレンマがあるからですよね。製品なら「この素材を使っています」「この機能があります」と言えるけど、サービスは「使ってみればわかる」では通用しない。
畑尾: だからプロモーションの現場では、「お客さまの声」や「ビフォーアフター」をよく使うんですが、それだけだと「証言の集積」になってしまって、ブランドとしての世界観が育たない気がするんです。
八木: それはまさに、「プロモーションがブランドの代わりをしようとしている」状態ですね。お客さまの声は、すでに育ったブランドを証明する素材になるけれど、ブランドそのものにはならない。サービスブランドを育てるには、「どんな体験をしてほしいか」という意志の言語化が先に必要です。
畑尾: 「意志の言語化」——それはどういうものですか?具体的に言うと。
八木: たとえば、ある美容院が「うちのサービスの哲学は、お客さまが帰り際に自分のことを好きになれること」と言葉にできているとする。そうすると、プロモーションで伝えるべきことが決まる。カットの技術ではなく、帰り際の笑顔を見せる。スタッフのプロフィールではなく、会話の空気感を伝える。ブランドの意志が、プロモーションの「編集方針」になるんです。
畑尾: それはプロモーターとしてすごく腑に落ちる。「何を作るか」より「何を伝えるか」が先で、「何を伝えるか」はブランドが決める。プロモーションはその後なんですね。

八木: 畑尾さんはプロモーションの現場で、サービスのブランドが「育っている会社」と「育っていない会社」の違いを、どんなところで感じますか?
畑尾: 打ち合わせの最初の一言でわかります。育っている会社は「うちはこういうお客さんに、こういう体験を届けたい。だからこのプロモーションでこれを伝えたい」と言える。育っていない会社は「とにかく認知を上げたい」か「競合がこれをやっているので同じようにやりたい」から始まる。
八木: 「競合がやっているから」——これは危険なシグナルですね。他者を見てプロモーションを決めている会社は、自社のブランドではなく、業界の平均値に近づいていっている。
畑尾: そうなんです。業界の平均値に近づくということは、差別化が消えていくということ。プロモーションで似たようなことを言い合っているサービス企業が、どのカテゴリーにも必ずいる。
八木: それはブランドが育っていないから、プロモーションが「模倣」に走ってしまう。ブランドがしっかり育っている会社は、競合が何をやっていようが「うちはこれを言う」という軸がある。プロモーションが自社の世界観の表現になっている。
畑尾: 逆に言えば、プロモーションを設計するプロセス自体が、ブランドを育てるきっかけになることもありますよね。「何を伝えるか」を本気で議論することで、経営者が自社のブランドと初めて向き合う、という場面を何度も見てきた。
八木: それはあります。プロモーションのクリエーティブブリーフを書こうとして、「うちの強みって何だろう」と立ち止まる。その問いが、ブランドの発掘につながる。プロモーションが、ブランドを育てる「鏡」になる瞬間です。
畑尾: 地方のサービス企業の場合、プロモーションとブランディングの関係はどう変わりますか?
八木: 地方は「人の顔が見える」という環境が、プロモーションの在り方を根本的に変えますね。首都圏では、不特定多数に届けるマスプロモーションやデジタル広告が中心になるけれど、地方では「誰が言っているか」がメッセージそのものになる。
畑尾: まさにそうで、地方のプロモーションで一番効くのは、経営者や社員の「顔と言葉」だと実感しています。社長がSNSで誠実に発信している会社は、広告費をかけなくてもブランドが育っていく。
八木: 「人がブランドになる」という感覚ですね。地方のサービス企業にとって、経営者の人格・姿勢・言動が、そのままサービスブランドのコアになっている。だから地方でのブランディングとプロモーションは、「経営者の言葉をどう育てて、どう届けるか」という設計が一番重要だと思っています。
畑尾: それは同時に、経営者にとってのリスクでもありますよね。顔が見えるということは、言行不一致がすぐにバレる。
八木: そうです。でもそのリスクを引き受けることが、地方でブランドを育てる覚悟だと思う。誠実に、正直に、地道に——その積み重ねが、首都圏の大予算プロモーションには絶対に真似できない、地域に根ざしたサービスブランドを育てていく。

畑尾: 最後に、サービスブランディングとプロモーションの関係について、一言でまとめるとしたら?
八木: 「ブランドは育てるもの、プロモーションはその育ちを加速するもの」です。プロモーションは、育ったブランドの価値を正しく、速く、広く届ける手段。だから順序は必ず「育てる」が先です。
畑尾: 私はプロモーターとして、「届ける力」を磨いてきました。でも今日の話を聞いて改めて思うのは、届ける力が本当に輝くのは、届けるに値するブランドが育っているときだということです。育てる人と届ける人が、同じ方向を向いて一緒に動く——それが理想のチームですね。
八木: その通りです。畑尾さんのようなプロモーターが、ブランドの意志を理解した上で動いてくれるとき、ブランドは最も速く、最も遠くまで届く。今日は本当にいい対話でした。ありがとうございました。
畑尾: こちらこそ。「届ける」と「育てる」を改めて整理できた気がします。ありがとうございました。


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