電通西日本でクリエイティブチームの統括を務めた八木泰介氏は、現在香川大学の特命教授としてその知見を地域社会の発展に活かされています。
広告の最前線から地域創生と教育の現場へ。八木氏のクリエイティブ哲学の根幹、そして地域の未来を拓く「クリエイターの力」について深く掘り下げてお話を伺いました。
第1章：クリエイティブの根幹は「本質的な課題解決」
Q1. クリエイターとしての活動の根幹となる信念は何ですか？
八木氏：「私の専門は『企業価値を高めるブランディングコミュニケーションの設計とクリエーティブディレクション』です。その根幹にあるのは、いかに『本質的な課題を見抜くか』ということ。見た目の華やかさや流行に流されず、クライアントの真の経営課題、あるいは生活者が抱える潜在的なニーズに焦点を当てます。
そして良い広告コミュニケーションは単に売上や企業成長を促すだけでなく、企業が世の中に発信するメッセージが明確になることで社員の皆さんが『なぜ私たちはここにいるのか』を再認識し、モチベーションや誇りを向上させるという、非常に重要な内部効果も生み出すのです。クリエイティブは企業の内側から活力を生むものでなければなりません。」
Q2. 統括として、「良いクリエイティブ」の基準をどのように定義されていましたか？
八木氏：「私が統括として判断する際の基準は常に3つの視点でした。
一つはクライアントのビジネス目標への貢献（結果責任）、
二つ目は社会や生活者へ新しい価値を提供できているか（社会性）、
そして三つ目はチームの情熱と熱量が込められているか（実現度）です。
特にメンバーの個性と強みを尊重し、単なる指示ではなく『これは社会を変える仕事だ』という共通認識のもと挑戦を促す環境作りを意識していました。統括の役割は個々のクリエイターが持つ可能性を最大限に引き出すことだと考えています。」
第2章：地域の企業経営者へ贈る「クリエイティブへの信頼」
Q3. 地域の企業経営者の皆さんに、クリエイターの力をどのように活用してほしいとお考えですか？
八木氏：「地域の企業には全国に誇れる素晴らしい商品や技術、そして何より熱意を持った人がいます。しかし、その『本質的な魅力』が適切な言葉や視点によって伝わりきっていないケースが非常に多い。
経営者の皆さんにはぜひクリエイティブの力を『未来への戦略的な投資』として捉えていただきたい。デザインやコピーライティングは『単なる広告費』ではなく『自社のブランド価値を永続的に高めるための戦略的な資産』です。投資である以上、短期的なリターンだけでなく長期的なブランド育成計画が必要です。
クリエイターを単なる『発注先』ではなく『共同経営者』あるいは『ビジネスパートナー』として信頼し、課題の根っこから共有してほしい。そうすることで私たちの力は最大限に発揮され、企業が想像もしていなかったような飛躍的な成長とブランド価値の向上に貢献できると確信しています。信頼は最良のクリエイティブを生むためのエンジンです。」
第3章：地域と未来を創る「クリエイティブの応用力」
Q4. 広告の第一線から、大学の特命教授への転身の背景をお聞かせください？
八木氏：「私のキャリアの転換は『地域・産官学連携』がクリエイティブの力を最も活かせるフィールドだと感じたからです。広告は企業の課題解決を担いますが、地域にはさらに複雑で多岐にわたる課題があります。それは『いかに地域資源をブランディングし、魅力的な未来を描くか』という壮大なクリエイティブディレクションそのものです。
大学というプラットフォームで企業や自治体、そして未来を担う学生を巻き込みながら『地域価値を高めるコミュニケーション』を設計することに大きな使命を感じています。クリエイティブの思考法は課題解決のための万能なツールであり、その力を地域創生という社会的な文脈で活用できることは大きな喜びです。」
Q5. 未来のクリエイターと地域の経営者へ贈るメッセージは何ですか？
八木氏：「『常に『聞く人』でありなさい』。これはクリエイターそして経営者にも共通する最も重要な姿勢です。市場や顧客の声だけでなく、社員の声、地域社会の潜在的なニーズに耳を傾け本質的なインサイトを見つけ出してください。
未来のクリエイターには『多様な視点』を持ち続け、固定概念に囚われずに多角的な知見を統合する力を養ってほしい。そして地域の経営者の皆さんにはクリエイティブを『未来への戦略的な投資』と捉え、クリエイターを共同経営者として共に汗をかき、失敗を恐れずに挑戦することで、地域の価値を高めていってほしいと願っています。」
総括（インタビュアーより）
本日の八木泰介氏へのインタビューを通じて、クリエイティブとは単なる表現技術ではなく「本質的な課題を見抜き、解決する戦略的な思考法」であることを再認識しました。
八木氏の語る「良いコミュニケーションが社員のモチベーションと誇りを向上させる」という言葉は、クリエイティブが持つ企業の内側への影響力を示唆しています。また、地域の経営者へのメッセージである「クリエイティブを未来への戦略的な投資と捉え、共同経営者として信頼してほしい」という力強い言葉は信頼と長期的な視点が地域創生を成功に導く鍵であることを明確に定義づけています。
現在、香川大学で地域・産官学連携に尽力されている八木氏の知見は地域社会の未来をデザインするための重要な指針となるでしょう。
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