広島大学発のスタートアップとして、革新的な次世代素材「単分子誘電体」の開発・社会実装を進める株式会社マテリアルゲート。同社の技術は、AIの普及に伴うデータセンターの莫大な消費電力問題などを解決する切り札として期待を集めている。今回は、代表取締役社長 兼 CEOの中野佑紀氏に、コア技術の強みや今後のビジョンについてお話を伺った。

革新的な次世代素材「単分子誘電体」とは?
——まずは、マテリアルゲートの事業内容と、コア技術である「単分子誘電体」について教えてください。
(中野)「単分子誘電体」とは、専門用語を使わずに言えば「電気を貯める」機能を持った材料です。私が広島大学の研究室に在籍していた頃の2017年に論文発表された、非常に新しい技術成果になります。
「単分子誘電体(Single-Molecule Electret, SME)」は一つの分子で自発分極(メモリ機能)を示す“小さく、低環境負荷、高性能”という次世代エレクトロニクスに不可欠なニーズに応える技術です。
“小さく”
強誘電体は,外部電場を印加せずにプラスとマイナスの偏り(電気分極)を自発的に持ち、その向きを電場によって切り替えることができる材料です。
メモリやセンサー、アクチュエーター、コンデンサなど身の回りの多くのデバイスに組み込まれ、使われています
一般的な強誘電体は、結晶構造の非対称性に由来した電気分極を示し、分子や原子間の相互作用によって分極方向が揃うことで自発分極を示します。
そのため、この自発分極を発現させるために数十から数百のユニットセル(~30nm以上)が必要であり、素子の小型化が難しいという問題点がありました。
そのような中,2018年に広島大学の西原教授らの研究グループが、“たった一つの分子で自発分極を示す”という従来の強誘電体理論では説明できない性質を示す新しい物質群「単分子誘電体」を発表しました。
この分子は、プレイスラー型ポリオキソメタレートという1nm程度の籠型分子の中に1つのテルビウムイオンが包接されており、内包されたイオンの位置によって自発分極が発現します。
さらに外部電場によってその位置を変えることができる、すなわち分極方向を切り替えることができるため、この分子は一つの分子で従来の強誘電体と同じように自発分極を示すことができます。
しかし、その大きさは従来の強誘電体のわずか1/1000です。
「単分子誘電体」の自発分極発現機構は、これまでの強誘電物性発現理論の延長線上から離れた全く異なるものであるため、従来の強誘電体では難しいとされてきた強誘電素子の超小型化が実現できると期待されています。
マテリアルゲートは,「単分子誘電体」を用いたデバイスを開発することで,強誘電体デバイスの小型化や薄化に寄与できると考えています。
現在、マテリアルゲートは素材メーカーとして、材料である「単分子誘電体」の製造・販売を事業の柱として研究開発を行っています。将来的にはただ材料を売るだけでなく、それをどう使いこなすかというレシピや装置も含めた技術供与を行い、半導体や電子デバイスのメーカーにセットで販売してゆくことを考えています。
——既存の材料と比べて、「単分子誘電体」の最大の強みはどこにあるのでしょうか?
(中野) 最大の特徴は、圧倒的な「微細化(小さくできること)」のポテンシャルです。世の中の電子デバイスはどんどん小型化・薄型化していますが、既存の「強誘電体」という材料には、ある一定以上小さくするとデバイスとして使えなくなるという物理的な「微細化限界」がありました。
私たちが開発した単分子誘電体は、従来の強誘電体を1000倍くらい小さくしても、しっかりと性能を発揮します。メカニズムとしては、カゴ型の分子の中にプラスの玉が入っており、それが動くことで「1」と「0」のスイッチ機能として働き、メモリになるというものです。

AI時代の社会課題の解決につながる技術革新
——その革新的な技術は、どのような社会課題の解決につながるのでしょうか?
(中野) 現在、AIやビッグデータの急速な普及により、データセンターの消費電力が急増していることが大きな社会課題となっています。現在のデータセンターで主に使われている「DRAM」というメモリは、処理が速く高性能ですが、電気を大量に消費するという弱点があります。
私たちが開発している単分子誘電体を使ったメモリは、このDRAMと同等の処理能力を持ちながら、消費電力を90%も削減することが可能です。世の中でメインに使われているDRAMを私たちのメモリに置き換えることで、データセンターの消費電力をぐっと下げ、情報化社会に大きく貢献したいと考えています。
——今後の事業展開やロードマップについてお聞かせください。
(中野) 現在は研究開発に100%注力しており、すぐに売り上げが立つ事業ではありません。しかし、そこからメモリという大きなスケール領域に参入していくことで、一気に成長していくことを想定しています。
製造体制については、ある程度の自社設備は持ちますが、基本的には外部に製造を委託するファブレス(OEM)モデルを採用し、材料販売や技術供与による収益化を目指しています。
「素材の力で未来を創る(Power of Material)」に込められた思い
(中野)日本の研究者が紡いできた材料科学の知の蓄積と素材産業の揺るぎない国際競争力。この確かな強みは、我が国の豊かな未来を拓く可能性の源泉です。
私たちは、この強みを次世代へ繋ぐ架け橋でありたいと考えています。世界が直面する様々な社会課題を、化学技術を起点に私たちは解決し続けます。
素材の力で未だ見ぬ世界の扉を開くそれが、マテリアルゲートが描く未来です。
私たちは「メモリだけの会社」ではなく、素材開発の力で社会課題や技術課題を解決する存在でありたいと考えています。
現在、日本の半導体産業は様々な課題に直面していますが、その土台となっている素材・材料産業は依然として高いシェアと強さを持っています。私はこの分野が好きですし、これからも日本の素材産業が強くあり続けてほしいと願っています。他の国が追いつけないようなマニアックな基礎研究と、素材のオリジナリティによって世界が直面する課題を根本から解決していく。そんな、日本発の技術で世界に貢献するエコシステムを創り上げることが、私たちの存在意義です。
インタビュアー

リージョングロースパートナーズ株式会社
Marketing Director 山口ユウジ (YAMAGUCHI Yuji)
上級ウエブ解析士
「地域にこそ正しいマーケティングを」モットーにインターネット広告、SNS運用サポート、CRMといったフルファネルでのマーケティング支援が専門。大手アパレル企業のMD職を経験した後、地元広島でもマーケティングの仕事ができることを求めて2003年(株)電通西日本入社。大手移動体通信のプロモーションを約10年担当し(株)電通や(株)電通デジタル・ネットワークスへの出向も経験した後、電通西日本のデジタルビジネス部門の黎明期を牽引。自らの知見が地域創生の一助になることを目指し2019年デジタルマーケティングイノベーションラボ(株)を創業。地元企業のEC支援やメディア企業のデジタルマーケティング強化の支援を行っている。趣味はカープ観戦、旅行。尊敬する人は小林一三翁。


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