学び続ける組織は、なぜ強いのか

イノベーション

―― 香川大学特命教授・八木 × キャリアコンサルタント大井 対談


「人が育つ会社は強い」。
しかし現実には、“どう育てれば良いかわからない”“学びの効果が感じられない”と悩む企業は多い。

今回の対談では、社会人教育に長年携わる 香川大学特命教授・八木先生 と、人材育成の現場を支援する キャリアコンサルタント大井 が、学び直しの本質と、地方企業が変わるための条件 を徹底的に語り合った。


人件費は“経費”ではなく“投資”

――八木先生は、企業と人材育成の関係をどう見ていますか?

■八木

「まず、企業にぜひ理解していただきたいのは、
人件費は“経費”ではなく“未来への投資”だということです。

帳簿上は経費として扱われますが、
実際には“お金を使った分だけ企業価値が上がる可能性がある”という点で、むしろ設備投資や研究開発費に近い性質を持っています。

ただ“働く人”と捉えると、どうしても“給与=支払い”という意識から抜け出せない。
しかし本来は、人が成長することで企業の成果が積み上がる。という構造になっている。

人口減少が進む今は、“増員で業績を伸ばす”というやり方が通用しなくなっています。
だからこそ、1人が2倍、3倍の価値を生み出せるようになる“教育投資”が最重要になる。

よく『育てても辞められたらどうするのか』と聞かれますが、私は逆に、
“育てないから辞める”と言いたいのです。

社員が『ここで働いていて成長できている』と実感できれば、会社への信頼が生まれ、結果として定着率も高まる。
これは多くの企業を見てきて間違いなく言えることです。」

「何を学ばせればいいのか分からない」企業へ

――企業側からは“学ばせる内容が分からない”という声も多いです。

■八木

「そうした悩みが出る背景には、企業としての“方向性の不在”があります。

学びはあくまで“目的達成の手段”です。にもかかわらず、“学びそのもの”を目的に置いてしまう企業が非常に多い。

その結果、
『とりあえず資格?』『DX研修を流行ってるし入れる?』
といった“学びの迷子状態”に陥ります。

本来であれば、企業のパーパス(存在意義)やビジョンがまず先にあり、そこから必要な学びを逆算する。

例えば、地域密着を強めたいなら、人間理解や対話力の研修が必要や、新規事業を目指すなら、仮説思考やマーケティング。業務効率化を進めるならデジタルリテラシー。

このように“学びの必要性は方向性から自然に生まれる”もの。方向性が曖昧なまま“研修だけ入れる”と、社員も『何のための学びなのか』がわからず、成果に結びつきません。

まず企業として“どこへ向かいたいのか”を言語化すること。
そこから学びは初めて意味を持ちます。」

終身雇用が崩れたのに、なぜ今“学びへの投資”なのか

――終身雇用が崩れて“育てても辞める時代”という声もあります。

■八木

「確かに、昔のように“会社が最後まで面倒を見る”という時代ではありません。しかし、それは“投資が無駄になる”という意味ではないんです。

むしろ逆で、学びを提供できる会社ほど、辞めにくい会社になる。

これは非常にシンプルな構造です。

人は“自分を大切にしてくれる場所”を離れにくいもの。
学びの機会が豊富な会社は、“私に投資してくれる会社だ”社員が感じる。

また、成長を実感できる環境は希少なので、社員が外に魅力を感じにくくなる。

もうひとつ大切なのは、学びは離職率だけでなく、企業の競争力そのものを押し上げるという点。

成長した人は新しい提案ができるようになり、仕事の精度も上がり、やがて社内に“学びが当たり前の文化”が育つ。たとえ数人辞めたとしても、企業全体の成長スピードが上がるメリットの方が遥かに大きいのです。」

年齢を重ねても力を発揮できる組織へ

――高齢化が進む中で、企業はどう対応すべきでしょうか?

■八木

「これからの日本は、定年が65歳、70歳と延びていきます。つまり“長く働ける仕組みをつくること”が必須になります。

そのために重要なのが、フィジカルではなく“知的価値”で働けるようにすること。

人間は年齢とともに体力は落ちますが、知識や経験は年齢とともに深みを増す。
ここを企業がうまく活かせるかどうかで、生産性は大きく変わります。

例えば、短時間で判断が必要な仕事、蓄積した知識を後輩に伝える仕事、業務改善の提案、顧客の深い相談に乗る業務などの、“知的価値を提供する仕事”は、高齢社員が力を発揮しやすい。

ただし、知識は“更新し続けなければ価値を持たない”だからこそ企業には、
年齢に関係なく学び続けられる環境づくりが必要なんです。」

週1日は“学びの時間”にするという提案

――週1の学び制度、かなり本質的な提案でした。

■八木

「私は、本気で“週5日のうち1日は学びにあてるべき”だと思っています。

なぜなら、インプットがなければアウトプットの質は絶対に上がらないからです。

日本企業の多くは、“学びは仕事のあとで”という意識が強い。
しかしそれでは、よほど強い意志のある人しか成長できない。結果として組織全体の力が頭打ちになる。

週1日をまるごと学びに使うことで、仕事の理解が深まる、新しい提案が生まれやすくなる、職場に“成長の空気”が流れる、学びが常態化し、文化になる。

そして何より重要なのは、社長やマネジメント層が先頭に立って学ぶことです。

トップが学び続ける姿勢を見せれば、社員も自然と学ぶ。
これが“学ぶ組織文化”の本質です。」

“質問の質”が成長の差を生む

――最近の若い人について、質問力に差があると感じます。

■大井

「学生支援をしていると、質問の深さの違いが本当に大きいと感じます。
表面的な質問で止まってしまうケースが多い一方で、
“相手が答えにくい本質”を突く質問ができる人もいます。」

■八木

「そこはとても重要なポイントですね。

日本の組織には“質問しにくい空気”が根強くあります。間違ったら恥ずかしい、場の空気を乱したくない、疑問があっても言いづらい、という理由で、深く考える機会を逃している。

しかし、質問する行為そのものが“学びの入口”です。

質問力の差は、思考力、理解力、本質に迫る力に直結する。

だからこそ企業は、
“質問できる環境”“疑問を歓迎する「心理的安全性」を備えた組織文化”を意図的につくる必要があると感じています。」

“学ばない会社は淘汰される”という現実

――最後に、地方企業へのメッセージをお願いします。

■八木

「私は今の時代、学ばない会社は確実に淘汰されると考えています。

なぜなら、人口減少・人材不足の時代において、唯一企業が競争力を保つ方法は、
社員の能力を高め続けることしかないからです。

人が来ない、人が育たない、人が辞めていく。これらの根本原因は、決して“人材がいない”のではなく、
“学びの環境がない会社”に魅力がないという点にあります。

学びがある会社には人が集まり、学びがあるから育ち、学びがあるから辞めない。

地方企業こそ、
“学びを企業文化として実装すること”が最大の競争優位になります。」

まとめ

今回の対談で明らかになったのは、
学びは単なる研修ではなく、“企業の未来そのもの”を形づくる行為
だということだ。

・人件費は経費ではなく未来への投資
・学びはパーパスから逆算
・終身雇用が崩れても“学びのある会社”は辞められない
・知識を更新し続けられる人材こそ企業の核
・週1の学び制度が企業文化を変える
・質問文化の弱さは企業側が補完すべき
・学ばない会社は淘汰される

地方の企業がこれから生き残るためには、
“社員が学び続けられる環境をつくる覚悟” が不可欠だ。

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